シン・治してなんぼ

痛みに特化した治療に携わっている医療関係。非常識はびこるネット情報の一時の安らぎになれるように書いていきます。

「膝が痛い気がする」…?

どうも、今日もちょっと変わったクライアントの話です。

「膝が痛い気がする」という訴えをした方。

今回は僕が担当ではなく、同僚のスタッフが対応した方です。

 

膝痛訴えで理学療法処方になりました。

立位バランス低下、片足立位不可、著名な筋出力低下です。

会話をしていると常に「痛い」ではなく「痛い気がする」との訴え。

体幹筋の出力低下がみられており、四つ這いでのエクササイズ。

エクササイズ直後で片脚立位可能、立位で外乱刺激を与えてもびくともしなくなりました。

 

ここまでは普通の話。

生活状況を聴取すると、色々な側面が浮かび上がってきました。

家族に「もっとしゃんと歩け!」「歩くのが遅い!」と叱責されると膝が痛くなる気がするとのことでした。

その他に

「門限が5時30分」

「門限外で病院に行くのに家族に許可をとらないといけない」

など、うーんと思える内容です。

60代女性の方です。

 

ストレスが痛みとして表出する身体症状症(身体表現性障害)の要素が大きい方かもしれません。

膝の痛みは、ほとんどの場合メカニカルストレスによる痛みとされています。

慢性腰痛のような心理社会的側面が強くなるケースは稀と言われています。

今回はまさに稀なケースかもしれません。

 

筋出力低下も同時に起こっているので、精神的なストレスは強いと思われます。

このようなケースにおいても、エクササイズをすれば身体の状態は改善するので理学療法を続ける意味はあります。

 

以前に他の人から聞いた話ですが、

痛くて足を地面につけられないクライアントがいました。

足漕ぎ型車いすで下肢の運動を動かすと「足が痛くない!」と言い、数十分の介入後には足をついて歩行可能になったという話を思い出します。

人間は、痛みは、ホントに不思議な挙動をします。

 

生活状況の聴取は本当に重要です。

介入のヒントや意識すべき行動が隠れています。

回復期リハビリテーション病棟に勤務していたころに培われたニュアンスだったり、意識しているポイントだったりします。

整形外科クリニックでは、こういう視点を持つこと自体が難しいと思います。

 

痛み治療はリハビリテーションICFの概念で紐解くと幅が広がります。

理学療法だから身体機能を高める、とても大事です。

それを生活にどう活かすのか、個人因子も含めて目標立案・計画実行です。

解剖・生理学のみでは不十分。

心理学、精神医学、リハビリテーション医学の知識も総動員して考えると上手くいくケースや理解しやすいケースが増えてきます。

 

結果を出したい人ほど、全人間的に診ると幅が広がります。

解剖生理はものすごく大切です。

でも、人間はそれだけで構成されているわけではないから。

全人間的に診ることは、人の複雑さや不思議さも受け入れることなんだと感じています。

人間はホントに面白いです。